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メキシコの神話伝説
目次
- 世界の始め
- 大洪水
- 山彦の由来
- 太陽の出現
- 眼が泣いて抜け落ちた神
- 決死の組打ち
- 腹の中の神
- 火の起源
- クェツァルコアトルの威力
- 巫術師の悪計
- 蜘蛛の災い
- 四人の若者
- 金星の由来
- 妻奪い
- 隠者の堕落
- オマカトル神の怒り
- 死人の旅
- 建国の伝説
- フエマック王の物語
- トルテック国の滅亡
- メキシコ町の建設
- 乙女の犠牲
- テズクコの王子
- 百人の恋人を持つ妃
- 勇士の犠牲
- 冥府の知らせ
神名
| 神名 | 別名 | 概要 |
| テズカトリポカ神 | ヨアリ・エヘカトル(夜風)、チトラカフアン、トラマチンカトル | 「火の鏡」という意味。風の神、大気の神、生死の神、運命の神、正義の神など。 |
| フイチロポクトリ神 | ハチドリや蛇と密接な関係がある。 | 蜂鳥、豊作の神様 |
| クェツァルコアトル神 | エヘカトル(大気)、ヨルクアット(ガラガラヘビ)、トヒル(漫歩者)、フエマック(強き手)、ナニヘヘカトル(四つの風の主)、トラヴィズ・カルパン・テクトリ(曙の光の主)「ククルカン(蛇雨神)、グクマッツ(緑色の羽をもつ蛇)マヤ族」 | トルテック族が信奉する神。「羽の生えた杖、蛇」イズタックミシュコフアトルの七人の子の末っ子。トラン、チョルラなどで崇拝。若干の生き血を捧げものとしている。 |
| トラロック神 | 雷の神として、フラカン(キシェ族)、ピラン(チレ地方)、コン(コラオ族) | 雨の神、湿気の神。祭礼としてエツァルクァリズトリ、クァウイットレウアがある。妻はチャルチフイットリクェ(サファイア色の上衣の貴女)子供たちをトラロック族(トラロカン)という。 |
| チャルチフイットリクェ女神 | | トラロック神の妻、エメラルド色の上衣の貴女という意味。(サファイア?)十字を載せた壺と水草の花を持つ |
| シウテクトリ神 | フエフエテオトル(神々のうちで最も古きもの)、タタ(我らの父) | 黄金づくりの鏡を持っている。火の神、火の主を意味する。 |
| メツトリ女神 | ヨフアルチシトル(夜の貴女) | 月の女神。一方で作物の保護者、他方では温気と冷気と様々の夜魔を齎すもの |
| マクイルショチトル神 | ソチピリ | 狩りの幸をつかさどる神(「五つの花」、「花の源」という意味)ザポテカ人、ナフア族で崇拝。 |
| ミシュコアトル神 | | アズテック族の狩猟の神。「雲蛇」という意味。オトミ族の宗教神話から取り入れた。(オトミ族の間では大気と雷霆の神だった)雷火を標徴する矢を手にしている。現在の信仰では「水魔」のようにとらえられる。 |
| チコメコフアトル女神 | センテオトル(植物の生長をつかさどる神の総称) | 七つの蛇を意味する、また水の豊饒力を象徴する。玉蜀黍を生い立たせるといわれる。祭礼(フエイトゾズトリ4月5日、サラクィア6月28日から7月14日) |
| プルクェ酒の神々 | 1.オメトクトリ(二匹の兎)、2.パテカトル、3.テクェクメカウイアニ、4.クァトラパンクィ(頭を割るもの)、5.パパズタック(神経無き者)、6.テアトラフイアニ(水中で溺死させる神)、7.テポシュテカトル | プルクェ酒(アガヴェ・アメリカナという植物の汁から作る)メキシコ人は酒を飲んで酔うのはこの神の仕業と考えた。これらの神はまた農耕の神でもあった。 |
| カマシュトリ神 | | トラスカラ地方の戦の神。本来は狩猟の神。稲妻の矢を持っている。 |
| オマカトル神 | 「二本の葦」 | 乾季と宴楽と祭礼の神。貴族や富人に祭られた。 |
| トラゾルテオトル女神 | ソチクェツァル(花の如き羽根)、トラルエルクァニ(不潔物を食う者) | アズテック族が信奉、愛欲の女神、二面的で片方で愛欲欲望奢侈の保護者、もう片面で懺悔、告白をつかさどる |
| ヤカテクトリ神 | | 「主なる案内者」、商売の神、旅行者を保護する神。曲がった柄の杖 |
| オポクトリ神 | | メキシコの漁師や鳥捕者に神聖な神。「左利き」を意味する。この神の祭にオクトリと呼ばれる飲み物を飲む。 |
| シペ神 | | 皮を剝がれたる者」の意、人身御供の神。3つの姿、①へらさぎ②コチンガ鳥③虎、天と地と冥界、火と土と水を表している。 |
| ナナフアトル神 | | 「哀れなる頼病患者」、頼病をつかさどる神。ナフア族言語では頼病は神々しいという意味。 |
| イシュトリルトン神 | | 医学の神、薬料と治療の神。「マクイルショチトル神」の兄弟。子供が病の時壺の水(トリラトル「黒色の水」) |
| ミクトラン神 | ミクトランテクトリ、(北方の地の主) | 冥府の神、北方の地の意味。メキシコ民族は北の地を霧に閉ざされた不毛の境と信じていた。隣にはチチミメス(チチミトレス)という醜悪な怪物を左右に従えている。 |
| ソロトル神 | 「怪異な神」「電光獣」(トラカ・ソロトルという怪獣とも) | アナフアックの民衆の信じる神、元来はザポテカ人の崇拝にあった。両目がない。 |
名前リスト
世界の始め
世界の始めには何もなく、水が広がっていた。水からいつからか大地が現れた。
大地ができ、ある時「豹蛇」と呼ばれる鹿の男神と「虎蛇」と呼ばれる鹿の女神が現れた。二人は人間の姿をしていた。
二神は水の中に大きな岩をこしらえ、その上に美しい館を、岩の頂に銅でこしらえた一本の斧を突き立てて、大地の上に丸くなっている天空を支えることにした。
館はアポアラの近くで、上部ミシュテカの地にあった。二神は館に幾世紀住み続けた。
そのうち、二人の男の子が生まれた。一人は「九蛇の風」と呼ばれ、一人は「九洞の風」と呼ばれた。
二人は成長し、様々の技に通じ、動物に変化したり姿を見えなくすることもできた。
あるとき「九蛇の風」が「九洞の風」に自分たちの力は神々のおかげだと言い、神々に捧げものをしようといった。「九洞の風」も賛成した。
二人は粘土で高炉をこしらえ、煙草をもやし捧げた。これが神々に対する最初の捧げものとなった。それから花園をこしらえて、灌木や花や実を結ぶ樹や薬草を植え付けた。
その傍の地をならして、自分たちの住居と決めた。二人は満足して、煙草をふかして、神々にお祈りをした。
二人は暫くしてどちらからとなく、祈りの力を強めるために、身を苦しめて懸命に祈ることで力が増すと言い出した。
その後は、火打石でこしらえた小刀で自分たちの耳と下に孔を開け、楊の小枝で作った「ブラッシ」で木や草に血を注ぎかけてお祈りをすることにした。
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大洪水
大雨がいつまでも降り続いて大洪水がおこり、五十二度春を迎えた。人間の大多数が溺れ死んだ。
チトラカフアン神がナタという男と、ネナという女が飲み物をこしらえている所に、二人に杉の幹をくりぬいて船をこしらえるように言った。夫婦は急いで杉の船を作り乗り込んだ。
チトラカフアン神は船の戸を閉めながら、二人に一本の玉蜀黍の穂を食べているように言った。
二人は神の教えに従って、玉蜀黍を食べていたが船が動かなくなって外に出た。洪水は引いていて、残りの浅い水にたくさんの魚が泳いでいた。
二人は魚をとらえて火をおこしあぶっていた。天にいるシタリニクェとシタラトナックという神が下界を見て火を起こしているのを発見した。「なぜ人間どもは天界をくもらすのだろう」と。
チトラカフアン神はそれを聞いて人間界に降りて、二人に火を起こした理由を聞いた。二人は魚をあぶるためだと答えた。
チトラカフアン神は神々に捧げものをしないで食べ物を口にしてはいけないと言い、魚をつかんで尻尾と頭を捻り犬にしてしまった。
二人は恐れすぐに神々に捧げものをした。二人は子を産んで新しい人類の始祖となった。
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山彦の由来
大洪水でたくさんの人がおぼれた。助かった人たちは岩や木や山の上に登り水を凌いだ。
洪水は岩や木や山にぶつかり激しい音を立てた。洪水が退き大地が現れ、音が止まった。
それから人々が谷間へ行って大きな声を立てるとそっくりそのまま声が返ってくる。人々はどうしてそうなるのか話し合い、山の中に怪物が潜んでいるのではないかと探したが、怪物はいなかった。
すると一人の年取った男が、洪水の時の轟音がまだ残っているといった。これが大きな声を出したときに出てくるのだと。メキシコでは山彦は大洪水の名残であると信じられている。
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太陽の出現
昔世界に太陽がなく真っ暗で人間は闇の中で寒さに震えていた、人間たちは困りメツトリ(月)に訴えた。
メツトリは一人の人間が犠牲にならなくては太陽は現れないといった。
人間たちは命をなくすのが嫌で顔を見合わせて黙りこくっていた。
メツトリはナナフアトルというものをとらえて犠牲になるように言った。
ナナフアトルはそれに従うことにした。メツトリは屍を焼く薪の山を積み火をつけ、ナナフアトルを焼いた。
メツトリはそれを見て、自分も一緒に死ぬといい、炎の中に飛び込んだ。
人々は二人の死を悲しみ東の空を眺めていると、太陽が現れた。人々は踊りまわった。
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眼が泣いて抜け落ちた神
昔神が相談をして太陽をこしらえた。一人の神が太陽に命と力を与えなくてはならないといった。
他の神は賛同し、どうやって太陽に命と力を与えるか考えた。結果自分たちが犠牲になるしかないと考えた。
ソロトルという神がこれに反対し死にたいと思う者が死ねばいいと言い自分は命を投げ出すのは嫌だといった。
ソロトルは自分の仲間が死んでいくのが悲しいと泣き続け、目の玉が二つとも抜け落ちた。
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決死の組打ち
ナフア族の若者が一人の乙女に思いを寄せていた。乙女は若者を拒絶していた。若者はテヅカトリポカ神を思い浮かべ、乙女と結婚できなければ生きている甲斐がないので、テヅカトリポカ神にぶつかって命を失うか、勝って願いをかなえてもらおうと考えた。
それからテヅカトリポカ神を探し夜をさまよい歩いた。ある日右手に一本の投槍と左手に四本の控え槍のついた鏡楯を携えたテヅカトリポカ神と遭遇した。
二人は戦い、ついに若者は勝利し、乙女との結婚を願った。帰路の途で乙女と出会うと、乙女の方から、今までの無礼を詫び、若者が結婚を申し込むと乙女は快く引き受けた。
若者はテヅカトリポカ神に感謝してその象の前で祈りをささげた。
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腹の中の神
トルテック族がこしらえたトランの街の近くにコアテペックという山がある。その山影にコアトリクェという寡婦が住んでいた。
コアトリクェには一人の娘があった。名前をコヨルシャウクィといった。他に男の子が数人いた。
コアトリクェは信心深い女で、毎日小丘へ上り神々に祈りをささげていた。ある日祈りの最中空から彼女に美しい色彩の珠が落ちてきた。彼女はその珠を気に入って、太陽の神に捧げようと考えた。
暫くしてコアトリクェは妊娠した。コアトリクェの子はそれに気づくと心から母を憎んだ。
コヨルシヤウクィや弟たちは母を辱めた。コアトリクェが彷徨っていると自分の腹の中から呼ぶ声がして、母の仇を取るといった。コアトリクェは悲しいような嬉しいような気持ちで子が生まれるのを待った。
コアトリクェの男の子たちはあるところに集まって、母を殺す計画を立てた。彼らの一人クァウイトリカックは母を殺す罪におびえてコアトリクェへ兄弟たちの企みを打ち明けた。
するとお腹の中の子供がクァウイトリカックに声をかけて自分がフイチロポクトリと言う名で天の神様の子であること、その神がコアトリクェを妊娠させたと言い、自分の言うことを聞くように言った。クァウイトリカックはその子の言葉に従うように誓った
コヨルシャウクィたちは母を殺すために投げ矢をもってやってきた。フイチロポクトリはクァウイトリカックに高い山から様子を見るように言った。
フイチロポクトリがクァウイトリカックに彼らの様子を聞くと、最初ツォムパンチトラン、次はコアシャルコ、次はぺトラック、そしてすぐそばまで来くると、フイチロポクトリは青い色をした楯と投槍とを振りかざしながらコアトリクェの体から飛び出して、鳥の羽飾りを頭に、左足に様々の羽根を纏い、蛇のような形の稲妻がさっと迸り出てコヨルシャウクィの体を微塵に砕いた。他の兄弟はこれを見て驚き逃げ出した。
兄弟たちは追い詰められて湖に飛び込んだがフイチロポクトリは投槍で殺してしまった。
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火の起源
人間は初め火を知らなかった。獣の肉は生で食べ、寒さに打ち勝つ術もなかった。くぇつアルコアトル神はそれを見て可哀想に思っていた。
ある日ケツァルコアトルは人間たちを呼び集め便利なものをこしらえると言い、それが何か当てるように言った。。
人間たちは、素晴らしい投槍、どんどん食べ物を出してくれる器、美しい着物、棲みよい家と次々に答えたがどれも違った。
人間たちは早く教えてくれとケツァルコアトルに言うと、火と答えた。火を知らない人間に火が「血のように赤くて、太陽の光のように明るく暖かいもと」と伝えると人間は喜び、早くこしらえるように催促した。
ケツァルコアトルは黙って靴を脱いで打ち震うと火が燃えだした。これを人間たちに与えた。こうして人間世界に初めて火が出来た。
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クェツァルコアトルの威力
クェツァルコアトルは、恐ろしい威力を持った神で、岩に手を当てると岩がへこみ、大きな石を抱えて、雨のように八方に投げ飛ばすと、森という森が見る間に平地になり、矢を射るとどんな大きな樹の幹でも突き抜けてしまう。
自分の思っていることを人間に伝えるときは、一人の使いを「叫びの丘」と呼ばれるツァチテペックの頂に立ってクェツァルコアトルの言葉を口にすると、声は雷よりも高く鳴り響いて五十里の外に聞こえる。
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巫術師の悪計
クェツァルコアトル神の時代はすべての人間が富み栄えて幸福であった。
トルテック人が幸福だったためアズテック族の三人巫術師、フイチロポクトリ、テズカトリポカ、トラカフエパンが妬ましく思い、トルテック族をひどい目に合わせようと考えた。
テズカトリポカは老人の姿をしてトランの都、クェツァルコアトル王の宮殿を訪れ侍童に王様に会わせてほしいと頼んだ。駄目だといったが引き返さず、クェツァルコアトル王へその旨を話すと会うことにして、老人を宮殿へ招いた。
老人は奇体な薬で王の悩みが退散するというと、王は病気になっているため待っていたと言い、薬を飲んだ。この薬がプルクェ酒でクェツァルコアトルは酔っぱらって、老人のいうがままにしてしまった。
テズカトリポカは続いてアメリカインディアンの姿になり、トルテック族の酋長ウエマックの館を訪れた。
ウエマックに美しい娘がありよく言い寄られていたがウエマックはそれをはねつけていた。その時乙女が館の窓から外を眺めていると、気高い若者が通ったのを見つけ恋に落ちた。侍女に名前を聞くとその名はトウエヨということが分かった。
乙女はその若者を思い続けたがとうとう重い病にかかった。ウエマックが病気の理由を侍女に聞くと、トウエヨが原因と分かり、その若者を連れてくるように家来に言った。
トウエヨが連れてこらえると自分が緑の色具(儀式で利用するもの)を売り込みに来たのだと答えた。トウエヨは布一枚で、ウエマックはなぜそんな身なりなのかを聞いたがトウエヨの国の風俗だとのことだった。
ウエマックが娘の病がトウエヨにあると告げるとトウエヨは自分を殺すように言ったが、ウエマックは娘との結婚を許した。若者に成りすましていたテズカトリポカはウエマックの娘を手に入れて、一騒動を起こすことにした。
トルテック人たちは結婚に不満を感じた。ウエマックは騒ぎを紛らわすため隣国のコアテペックに戦いを挑むことにして戦の用意を命じた。
戦士たちはトウエヨに手並みを見せてくれといった。トウエヨは見事敵を一網打尽にした。ウエマックは盛んな凱旋式をおこない戦場で功績を残した名誉の服装をした。
人々は嫉妬したが、テズカトリポカはトランの街で盛んな宴を開いて多くの人を招待した。
トウエヨに変装したテズカトリポカは面白い歌を歌い出した。そして人々に歌に合わせて足拍子を取るように言い、人々は足拍子を取ると、面白くなり、どうしても踊りを止めることができない。みんな気違いになり足を踏み外し崖から谷底に転げ落ちてそのまま石になった。
トルテック人を痛めつけたテズカトリポカはフイチロポクトリとトラカフエパンの所へ帰り、自分の仕事を話した後で、今度は三人で仕事をすることにした。
暫くすると手品師に姿を変えたテズカトリポカはトランの街にひょっこり現れ、市場で手のひらに赤ん坊を座らせて集まったトルテック人たちに赤ん坊が口笛に連れて踊りを踊るといって口笛を鳴らすと赤ん坊(フイチロポクトリ)は踊りそれが面白くトルテック人たちは押しより喧嘩をしだし、大勢が踏み殺された。
死人が出たことを二人のせいにして悪口を言っていたが、トラカフエパンが計略通りに二人を殺すように煽り立てた。人々は、テズカトリポカとフイチロポクトリを殺し、それを見て罵っていたが、二人の死体から悪習が発散し数千の男女が息が切れて死んでしまった。
するとトラカフエパンが死体をかたずけないと死人が増えるから死体を谷底に投げ込むように言った。人々は大勢で綱で引っ張ったが動かず、引っ張り続けていると、崖が崩れて大勢が谷底へ落ち込んで死んでしまった。
するとテズカトリポカとフイチロポクトリは起き上がってトラカフエパンと顔を見合わせて計略の成功を確かめ合った。人々は栄光ある帝国も最後だと悟った。
クェツァルコアトルも万事悪い方向に傾くので、トランを立ち退いてトラパランへ移ることにした。トラパランはクェツァルコアトルが新しい文明を広めるため巣立ちをした地であった。クェツァルコアトルは家来に言いつけてトランの都を焼き払わせて、宝石や黄金を深い谷に埋めて様々な羽根や声の鳥にアナフアックの谷間から去りついてくるように言った。
クェツァルコアトルは途中クァウチトランというところで大きな一本の樹を見つけその樹の下で休むことにした。そこで一人の小姓に鏡を持つように言った。小姓はクェツァルコアトルの前に鏡を差し出した。クェツァルコアトルは自分が年を取ったと叫び、その地はそれ以来フエフエクァウチトラン(年を取ったクァウチトラン)と呼ばれるようになった。
暫くしてクェツァルコアトルは立ち上がり、先へ進むため笛を吹くように楽人たちに言った。それを聞きながら歩いているうちに飢えが迫り、道端の石に腰を下ろした。その石に手をおろすと、石に手形が付いた。それ以来その地をテマクパルコ(手のかた)と呼ぶようになった。
一行がコアーパン迄来ると、ナフア族の神々に出会い、彼らはトルテック族やクェツァルコアトルに敵を抱いていたが、素知らぬ顔でどこへ行くのか尋ねた。
クェツァルコアトルはトラパランへ父なる太陽が呼んでいるから向かっていると答えた。すると、ナフア族の神々はお別れの印に宝石に細工する術や、絵を描く術や、羽根の細工の仕方などの秘密を教えて欲しいといった。
クェツァルコアトルは秘密を教えたくないと答えた。そして身に付けていた宝物をコズカーパの泉(宝石の泉)に投げ込んでしまった。それからクェツァルコアトルはコクタンというところに来た。すると一人の巫術師がいてどこに行くのか尋ねた。
クェツァルコアトルはトラパランと答え自分が身を起こしたところで太陽が呼んでいるのだと説明した。巫術師はお別れの印に一杯の葡萄の汁を勧めた。それを呑むと眠気がしてその場にぐっすりと眠ってしまった。
目が覚めると朝になっていてクェツァルコアトルは旅を続け、シエラ・ネヴァダ(雪の山)と火山の間を通り過ぎていると家来も鳥どもも死んでしまった。クェツァルコアトルは不幸に嘆き悲しみ涙を流して弔いの歌を歌って、一人で過ごし、ポヤウテカトルという山に登り始めた。
頂上に達して山風に吹かれあたりを眺めまわしていたが、やがて向こう側に駆け下りて、海端に出た。波打ち際に一つの筏が漂っていた。筏は大蛇、子蛇がもつれて出来ている。クェツァルコアトルは蛇の筏に乗って蛇どもにトラパランへ行くように言った。筏は波の上を滑ってトラパランへ向かった。
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蜘蛛の災い
クェツァルコアトルがトルテック人の王であったときには、すべての人が幸福であった。アズテック族の神テズカトリポカが、それを忌々しく思って苦しめようとした。
テズカトリポカは蜘蛛に姿を変え、美しい糸を履いて、空から大地に降りてきた。それからクェツァルコアトルの館に這って行き、プルクェ酒を王に勧めた。王が酒を毎日のように飲み、心が次第に荒んできて、妃のクェツァルペトラトルを忘れて、みだらな女たちを愛するようになった。
こうしてクェツァルコアトルの身に恐ろしい呪いが降りかかってきた。王はアナフアックの都を立ち退くことになり、美しい国をそのまま敵の手に渡すまいと宮殿を焼き払い、黄金や白銀を隠して、ココアの樹を雑木に変えて、鳥どもをトラン地方から追い出した。アズテック族の魔術師はクェツァルコアトルを引き留めようとした。
魔術師は壊したものをもとに戻すように頼んだがクェツァルコアトルは聞かずに立ち去った。
クェツァルコアトルはタバスコというところまで歩き続けた。そこで蛇の筏に乗り、波に漂って太陽の出る東の方へと消えて行った。
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四人の若者
クェツァルコアトルは蛇の筏に乗って東の方に去った後も国のことが心配で、信頼している四人の若者を呼び出し彼らに国に戻って四人で土地を別けて仲良く治めるように言った。
若者たちはクェツァルコアトルと別れたくないといったが、クェツァルコアトルはまた時期が来たら自分も国に戻るからそれまで代わりに治めてくれと言われると、クェツァルコアトルにも一日も早く帰るように願い、国へ帰った。
彼らは足が風のように早く、かえって四人で土地を別けてクェツァルコアトルが現れるのを待って暮らした。
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金星の由来
クェツァルコアトルがアズテック族の神々に苦しめられて、自分の国を立ち退かねばならなくなると、非常に悶え苦しんで、自分の領地を立ち退く程なら、いっそのこと死んでしまった方がましだといって、薪を積み上げて火をつけて焼死しようと下。彼の従者たちはひどく気を揉んで熱心に止めたがどうしても従者の言うことを聞かずに、薪を積み続けた。
山のように高くなるとその上に登り火をつけた。しばらくしてクェツァルコアトルは少し目を開いて従者たちの方を見ながら、この世から姿を消すが、また天界に現れるといった。
従者がどんなお姿で現れるのか尋ねると、星になって現れると答えた。炎が燃えて体が崩れ去ると、皆泣いた。
しかし、クェツァルコアトルの体は心臓だけが燃え残って、動いていた。と思うと火の中から飛び出し大空へ上がった。それを見た従者たちは天まで上って星になるのだろうといった。
心臓は天へ上り光り輝く星となった。それは金星であった。
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妻奪い
雨の神トラロックの妻にトラゾルテオトルという女神があった。トラゾルテオトルは女神のうちで一番美しかった。
大勢の男の神たちは妬ましがり、何とかしてトラゾルテオトルを自分のものにしたいと思った。
しかし、トラロックが勢力ある神なので誰も実行しなかった。
ある日テズカトリポカが自分がトラゾルテオトルをトラロックから奪うと言い出した。
トラロックが下界に雨を降らせるために館を出ていきトラゾルテオトルだけが残されている隙に、テズカトリポカ神は、トラゾルテオトルに言い寄ると、女神は愛欲と奢侈の女神だけにテズカトリポカのような偉い神と一緒になったら楽しいだろうと思い、テズカトリポカに従った。
テズカトリポカ神はトラゾルテオトルと姿を隠した。
トラロックが帰ってきて自分の妻がいないことを知ると神々の所へ行き、誰が妻を隠したかと叫んだ。
神々はトラロックを恐れ黙っていたが、とうとうテズカトリポカが奪ったと話した。
トラロックはテズカトリポカと聞いて驚いた。神々のうちで一番勢力のあるテズカトリポカの仕業と聞くと悔しくても手の出しようがなかった。
歯噛みして立っていたがやがて自分の館に帰って行った。
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隠者の堕落
昔ヤッパンという隠者がいた。人間生活のわずらわしさを避けて山奥に引きこもって浄い月日を送っていた。
始めのうちは人間界の乙女たちが淫らな嬌態でヤッパンに情火を燃やさせようと尽くした。
しかし、ヤッパンはそれを眺めても落ち着き払っていた。
すると今度は悪魔どもが森の中に訪ねてきて、美人に成りすまして口説いたり、莫大な財産を持ち出して、浮世の楽しい生活に入るように勧めたり、怪物の姿となって脅したりした。しかし、ヤッパンはやはり冷然とはねつけた。
天界の神々はそれを見て口々にほめそやした。
すると、トラゾルテオトルが笑い出して、自分ならあの隠者に情火を燃やさせることができると言い出した。
トラゾルテオトルは昼夜問わず誘惑の手を尽くして隠者の心を蕩かそうと努めた。
ヤッパンはとうとうトラゾルテオトルの言葉に次第に心が乱れて淫らな情欲に浸ってしまった。
トラゾルテオトルは仕済ましたと思って天界に引き上げた。
天界の神々はそれが口惜しくてヤッパンを蠍に変えてしまった。
ヤッパンは折角永い間行いすましていた身の、ふとしたことから淫らな行いをするようになったのが恥ずかしくて堪らなく、日の光を見ることを恐れていつも石の下に隠れ潜むことにした。
しかし、何といっても女性に道心を破られたことが口惜しくて堪らないので、人さえ見ると、その体を刺して毒液を注ぎ込んでは、これを悩まし苦しめるのであった。だから今日でも、蠍は石の下に隠れて人を刺す。
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オマカトル神の怒り
ある金持ちが饗宴を催して盛大にオマカトルを祭ることにした。オマカトルの神像を広間に安置して古くからの儀式に従って供え物をした。そのうち招待していた客人がきて応接したが、応接に手を取られ儀式に手落ちがあった。
酒宴が始まり陽気に騒いでいると、一人の見知らぬ男が入って来た。
その男は黒と白に体を彩って、色紙を垂らした紙の冠を戴き、花模様の縁の衣をまとっていた。
人々はその男を見るとオマカトル神であると気づき、儀式に不備があったと悟った。
オマカトルは主催の金持ちに儀式の不備を指摘すると、男は許してくれと懇願した。
オマカトルは今更の申し出を刎ね災いがあっても知らぬといい立ち去った。
その後主催の金持ちも客人たちも、酒宴を止めて、どんな災いが身に降りかかるのかとおびえていた。
暫くすると饗宴の出席者は胃の病に罹って養生をしても治らなかった。
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死人の旅
ミクトラン(ミクトランテクトリ)が死の世界を司っている。メキシコ人の信仰によると、死人は様々な危ない目に合ってあの世にたどり着く。
メキシコ人は死人があると、幾本かの投槍を束ねたものを与える。
冥府へ向かう死人は投槍を手にして、まず二つの高い峯が向き合っている所に来る。その間を通り抜けるが、うっかりすると二つの峯が落ちて体を砕く。
今度は、蛇が躍りかかってくる。死人は戦わなくてはならない。
その次は一匹の鰐、名前はソチトナルがいる。死人の足音を聞くととびかかってくる。これと戦わなくてはならない。
今度は八つの砂漠と八つの山が連なっている。通り抜けると、いきなり激しい旋風が死人の体に吹き付ける。
旋風は刃のように鋭く、硬い岩でも切り抜ける。
それを避けるとイズプズテクェという悪魔が待っている。イズプズテクェは後ろ向きになった鶏の足で死人をつかんでは、身体を引き裂く。
今度はネシュテペフアという悪魔が行く手に控えている。
ネシュテペフアは死人がやってくると空中に灰を投げ飛ばし目をくらます。死人はそれを通り抜けねばならない。
数々の危難を切り抜けると冥府の門にたどり着く。冥府の者は死人を連れてミクトランの前に出る。
死人はミクトランの許しを得て、冥府に棲むことができる。
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建国の伝説
キリストの物語から566年経った頃、トルテック族がフエイマチンという名高い巫術師に率いられてメキシコのトランにやってきた。フエイマチンはトルテック族にトランが非常にめでたい土地で今から街をこしらえるといった。
トルテック人たちはフエイマチンの教えに従い街を築くため六年間働いた。
その間に壮麗な宮殿や神殿が出来て、街は果実が良く実り、「果実の場所」と呼ばれるようになった。丘には鳥や獣類がたくさん棲み、河には魚が群がっていた。
しかし、トルテック人を統べるものがいなかったが、寄り集まって話した結果チャルチウー・トラトナックというものを王にすることが決まった。
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フエマック王の物語
チャルチウー・トラトナック王から数代、紀元994年にフエマック二世がトランの王となった。
王は始め賢く国を治めていたが次第にわがまま勝手な振舞いをするようになった。
そこで国内に謀反が起こり妖しい凶兆が現れた。
老人たちは街が滅びるのも遠くないと囁き出した。
狡猾な巫術師トヴェヨがその様子を見て、魔法の太鼓を持ち出してたたき出した。
トランの街の人たちは太鼓の音に踊り出し、断崖の上から谷底に転げ落ちみんな冷たい石に変わってしまった。
トヴェヨは街が滅びる手始めだとつぶやいた。それから、トランの街の近くの山々が音を立てて、火を噴き岩を飛ばしだした。炎のうちに恐ろしい形相の怪物どもが現れて街の人々を脅かすようになった。トランの首長たち犠牲として一人の若者を祭壇の上に横たえた。心臓を取り出そうとすると若者の胸には心臓も血も流れていなかった。人々は恐れおののいて逃げ去った。
日が立つと屍は腐れ爛れて悪臭を放った。それが原因で街中に病が起こりたくさんの人が死に倒れた。
フエマック王はお気に入りの伴人を連れて、森の中を歩いていた。するとフエマックを呼ぶ声が後ろからした。
振り向くとそこには大勢の神々が立ち並んで、フエマック王は頭を垂れて立っていた。
神々はフエマック王の行いを攻めると、王は自分だけは助けてくださいといった。
神々はあきれて六年間災いを下すことにした。冬には霜が降り植物は枯れ、夏には日照りが続き河が干からび、岩が熱に溶けだした。続いて物凄い雨風がきて大きな蝦蟇が人々を苦しめた。翌年には旱魃が来て蝗が群がり畑を荒らした。それから雹が降り雷雨を伴った。
六年の間にトランの多くの人々が死んで、フエマック王も神々の怒りが恐ろしくなり王位を引くことにした。
王は自分の不徳によって災いが起きたことを認めて、卑しい女に産ませたアクシトルという息子に後を継がせることにした。
しかし、民はアクシトルに王になる資格がないと不平を言った。しかしフエマックはアクシトルを跡継に決めてしまった。
民は二人の男を頭に謀反を起こした。フエマックは二人の男を褒美で釣って誘惑し味方につけた。人々は泣き寝入り、アクシトルを王位につけた。
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トルテック国の滅亡
アクシトル王も始めのうちは懸命に国を治めた。月日がたつごとに父のフエマック王にまして乱暴な王者になった。人々は我慢が出来なくなり謀反を起こした。今度は名高い巫術師フエフエチンが采配を振るい、勢力があった。
アクシトル王は父に倣って主だった者を莫大な金で買収しようとしたが、トラン付近の野蛮人どもが見て今のうちにトルテック族を攻め滅ぼそうとアナフアックの湖沼地帯に攻め入って住んだ。
神々はアクシトル王に怒りをもっていた。賢人たちは神々をなだめるためにトルテック族の神聖な都テオチフアカンに大きな集会を開いた。話し合いをしていると、一人の巨人がきて一度に二十人の男をつかみ地面に投げつけ殺し、去って行った。すると今度は美しい子供が会議の座に座っていた。人々は可愛い子供の所に集まって行った。すると悪臭を放って子供は出て行ってしまった。その匂いで多くの人が死んでしまった。この子供は巨人であった。
巨人は姿を変じてたびたび現れて、人々を苦しめた。最後に巨人は残った人々に神々が人を見限り滅ぼそうとしている。といった。
トルテック族は家族を連れて国を立ち去って、フエフエチンはアクシトル王を攻めた。
フエマック王とアクシトル王の母は兵を集めてフエフエチンと戦った。戦いは数年続き、そのうち野蛮人どもがフエフエチンに見方をしてアクシトル王は敗戦した。
トルテック族はテズクコ湖の深い山奥に逃げ、トルテック国は滅びた。
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メキシコ町の建設
テズクコの湖の西の岸に近いところの一つの島でアズテック族の僧侶が戦争で生け捕りにしたコパルという乙女を島の岩石の上で殺して神へ生け贄にした
それから数年、一人のアズテック人が島を歩いていると乙女が生け贄に捧げられた岩から一本の仙人掌(サボテン)が生えていてその上に一羽の大きな鷲が停まっていた。鷲は爪に蛇をつかんでいた。アズテック人は良い兆しと思い僧侶へ話した。
お坊さんは話を聞いて神々しい気持ちがした。するとどこからか水に潜れという声が聞こえたためすぐそばの池の中へ飛び込んで水底へ行くと一人の男が座っていた。それは水の神トラロックであった。
トラロックは僧侶に何をしに来たか尋ね、僧侶はテズクコの岩から生えたサボテンに一羽の鷲が停まって大きな蛇をつかんで翼を朝日に拡げている、何かの兆だろうと思って尋ねにきたことを話した。
トラロック神は自分が僧侶を水の中に潜り込ませたと言って、アズテック族の都を造れという徴でテズクコの湖の側に都を立てることを許した。
僧侶は池から上がって人々にその言葉を伝えた。人々は都を造った。これがメキシコの町であった。
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乙女の犠牲
アズテック族がメキシコの町を作り上げると祭壇を造り戦の神フイチロポクトリに捧げた。フイチロポクトリは時々犠牲を求める。普段は戦で捕虜にした者の命を捧げたが、大きな災いが起こったときには国内の最も身分の高い者を犠牲に求められた。
あるときフイチロポクトリは巫女の口を通して一人の王女を捧げるように告げた。
アズテック族の王は犠牲の娘がいないのか、自分の娘を犠牲に捧げたくないのかはっきりしないが、コルフアカン(メキシコの町の名)の王の許へ使いを立てて娘をフイチロポクトリ神の母に仕立てて崇めるため送ってくれと言わせた。コルフアカンの王は大きな誇りを感じて娘をメキシコの町に送り届けた。
アズテック族の王は乙女の皮をはぎ取って僧侶の衣にするように言った。人々は娘の皮を剥ぎ取りフイチロポクトリ神の役目をする僧侶の衣に仕立てた。乙女の体は美しく飾り立てて神の犠牲に供えた。
コルフアカンの王は娘がフイチロポクトリ神の母として崇められる祭礼を見ようとメキシコの町に乗り込んできた。
王は神殿の中に案内され、松明を貰い様子をうかがうと、僧侶がフイチロポクトリの装いをしていた。見るとその衣が自分の娘の皮でできているのに気が付いた。途端に王は気がくるって神殿から逃げ出した。そして娘の死を嘆きながらうつけたような日を送り続けた。
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テズクコの王子
1418年にテクパネック人がテズクコの町に攻め入って、そこに住んでいたアコルフア人を打ち破って王を殺した。
王の子ネザフアルコヨトル(断食せる尾長狼の意味)はとある木陰に身を潜めて敵の手から逃れた。彼は父の惨たらしい死に様を悲しみ口惜しみ、彷徨った。テクパネック人は王子を取り逃がしたと四方に追手を出し探した。ネザフアルコヨトルはとうとう見つかりテズクコの町で牢屋に入れられた。王子は牢獄の中で父から地方の長にされた男に助けられある牢屋から抜け出して、姿を晦ました。
メキシコの町の王がそれを聞くとネザフアルコヨトルに同情し館に匿うことにし、折を見てテクパネック人の首領にネザフアルコヨトルと仲直りするように言った。
首領はメキシコ王の言葉を受け入れてネザフアルコヨトルと仲直りすることとなり、王子はテズクコの町に帰ってかつての父の住居である館に起伏することになった。
そのうちに首領が死んでその子のマシュトラが王位についた。ネザフアルコヨトルはマシュトラの即位の祝辞を述べたが、マシュトラは敵意を示し言葉もかけなかった。ネザフアルコヨトルが楽しからぬ顔で王の館を出ると一人の廷臣がこの都にいると王のために殺されてしまうと戒めた。ネザフアルコヨトルはそれに従いすぐにテズクコの街に帰った。しかし、街はすでにマシュトラ王が刺客を遣って彼を殺させようとした。しかし彼を追って追ってきた親切な廷臣が刺客を騙したためネザフアルコヨトルによく似た一人の若者が倒れただけであった。その失態を知ったマシュトラ王は力ずくでネザフアルコヨトルを探すため大勢の家来をテズクコの街に送り出した。,br.
親切な廷臣は早く町から出るようにネザフアルコヨトルに勧めたが、考えがあると言って、マシュトラ王の家来がやってくるのを待っていた。
やがて、家来がやって来た。ネザフアルコヨトルはトラクトリという球遊びをしていた。家来たちを見ると慇懃に館の一間に案内して、様々の食物や飲料を並べて家来たちをもてなした。家来たちのいる部屋の隣の間で大きな香炉で火をたき香炉から煙が立ち上り家来たちの眼を晦まし、部屋の隅の地下道に飛び込んで姿を晦ました。
ネザフアルコヨトルは父の代からの家来を訪ねてその小屋の中に潜んでいた。しばらくするとマシュトラ王の家来たちが小屋に押しかけてきた。ネザフアルコヨトルは布地をこしらえるためのすじ糸の下に潜り込んだ。家来たちは気づかず立ち去った。
マシュトラ王はネザフアルコヨトルがどうしても捕まらず、ネザフアルコヨトルを捕らえたものは邸宅と美女を褒美とすると言い国中を探し回らせた。ネザフアルコヨトルは追い詰められてテズクコとトラスカラの間の山地に身を隠し、昼は洞穴や深い森の中に、夜はうろつきまわり食べ物を探した。仲の良い兵士たちの持ってきた太鼓の中や、少女たちが刈り取った草の下に隠れた。テズクコの百姓は王子に同情し、家来たちが百姓に乱暴を働いても誰も行方を洩らさなかった。
そのうちにマシュトラ王の評判が悪くなり、家来たちは謀反を企みその頭をネザフアルコヨトルに立てようと話し合い始めた。ネザフアルコヨトルは父の仇を報いる秋と思い現れ、王に戦いを挑んだ。マシュトラは敗れネザフアルコヨトルは父の後を継いでテズクコの王となりメキシコの王と兵を併せてマシュトラを捕らえ神の犠牲としてささげた。ネザフアルコヨトルは永い間の辛苦に心が練れて、賢く正しい支配者となった。彼は厳しい掟の数々を定めたり、様々の芸術を奨め励ましたり、音楽会議を開いて、楽才を育て上げることに努めたりした。
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百人の恋人を持つ妃
ネザフアルコヨトル王の後を継いだのはその子ネザフアルピリであった。ネザフアルピリがテズクコの王になるとメキシコやその他の街の王者が挙って娘を差し出し妃にするよう申し込んだ。
その中でも殊に目立ったのはメキシコ王の娘チャチウネネチンであった。メキシコ王は王者の姫君にふさわしいように大勢の付き人をつけて、豪著な宮殿の中で育て上げた。
ネザフアルピリ王はチャチウネネチンを選んで妃とした。そして、彼女のために宮殿をこしらえて、僕2千人を付けた。チャチウネネチンはまだ年が若かったが身持ちが悪く、悪賢かった。
彼女は館の高楼から街路を眺め気に入った若者を見つけると侍女に連れてくるように言って、昼夜淫らな行いをし、飽きると若者を殺して、男の姿に似せた土偶を造らせて美しい衣をまとわせ、黄金や宝石で飾り立てて、部屋に並べ立てた。月日が重なるにつれて土偶は部屋いっぱいになった。ネザフアルピリが土偶について訊ねると国の風習に従って自分の神様の像を造ったといった。
チャチウネネチンはある三人の男だけは情欲を満たした後でも命を許して館の中で起き伏しさせた。三人の男はチクーコアトル、フイチリミチン、マシュトラと呼ばれた。三人は皆身分の高い若者だった。
ある日三人が歩いている所をネザフアルピリ王が見かけ衣の宝石がチャチウネネチンに与えたものであることに気が付き妃の館を訪れた。王は妃の寝間に入ると妃によく似せた人形があり、妃の姿はなかった。王は家来に館を探させると、チャチウネネチンが三人の男と騒いでいるのを見つけ縛りあげて王の前に連れてきた。王は裁判官によく調べるように言った。
裁判官が調べると、妃の言いつけで若者を館に連れ込む者、妃に飽かれた男を殺して屍を隠す者、男の姿に似せて土偶を造る者が暴かれた。ネザフアルピリ王はメキシコやトラコパンの支配者たちに使いを立て事の次第と妃とその一味を処刑する日取りを告げ知らせ、あらゆる貴族たちに罪人の処刑を見に来てもらいたいと家来たちに告げさせた。
処刑の日になると、国中から見物人が集まった。チャチウネネチンと三人の若者は首を絞め殺された。
二千人の一味も同様に首を絞め殺された。その屍は掘ってあった大きな穴に放り込まれ、炎で黒焦げとなった。
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勇士の犠牲
トラスカラ人がメキシコの皇帝モンテズマの軍勢と戦って、敗軍したとき、トラルフイコレという一人の戦士が囚われの身となった。
トラルフイコレは名高い勇士で、メキシコの兵どもはその名を聞いただけで、もう震え上がるほどであった。
彼らは計略によって彼を生け捕りにした。トラルフイコレはモンテズマ帝の許へつれていかれ、皇帝は彼の剛勇を耳にしていたので、彼を自由の体にして財宝を与え、帰りたければ故国に帰ってもいいといった。しかしトラルフイコレは囚われの身となった者がおめおめと故国に帰れるものかと、神の犠牲としてほしいと答えた。
モンテズマ帝は彼の剛勇を惜しんでそのまま生かしておいた。
そのうちに、メキシコ人とタラスカ人との間に戦が起きた。
モンテズマ帝はトラルフイコレを呼んで戦ってもらうよう頼んだ。トラルフイコレはこれを受け入れ兵を率いて出て行った。彼はタラスカ人を打ち破り分捕り品と奴隷をもってメキシコに凱旋して帰ってきた。町の人々は一斉に彼の手柄を褒めそやした。
モンテズマ帝はメキシコの市民となるように頼んだが、トラルフイコレはどんなことがあっても故国に対する反逆人にはなりたくないと答えた。皇帝は自由な身として、トラスカラに帰るように勧めたが、彼は一日も早く神の犠牲としてささげて不幸な生涯を終わらせてくれと答えた。
モンテズマ帝はトラルフイコレの心に感動して、その申し出を受け容れることにした。
皇帝はトラルフイコレをテマラカトル(捕虜を殺して神への捧げものにする石)にくくりつけるように家来に言った。家来たちは心からトラルフイコレの最期を悲しんだ。皇帝も彼の死を華やかにするために自分の面前で試合を催させることにした。
試合の場でトラルフイコレは相手を選ばず斬って回った。名だたる勇士8人を倒し20人を傷つけ自分も深手を負って倒れた。それを見た僧侶はトラルフイコレの体を抱えてフイチロポクトリの祭壇に運んだ。そして犠牲の石の上で彼を殺してその心臓を神に捧げた。
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冥府の知らせ
モンテズマ二世の妹にパパンチンという乙女がいた。皇帝は彼女をトラテルルコの領主に娶わせた。
パパンチンは皇帝に先立って死んだ。皇帝は妹の死を嘆き悲しんで、数々の重臣と野辺送りの式に連なった。パパンチンの遺骸は皇帝の宮殿の下にある大地の中の広間に安置され、石の蓋でしかと入口を閉ざされた。
次の日の明け方、皇帝の子供の一人が付添いの女の先生を探して歩いていると、浴場の側に亡くなったパパンチンが立っていた。パパンチンは子供に女の先生を呼んでくるように言った。
子供はすぐに女の先生を呼びに行き、死んだはずのパパンチンが呼んでいる旨を伝えた。
女の先生はすぐに信じなかったが、子供がしきりに言うので、子供について庭にでると、パパンチンが浴場の階段に腰を掛けていた。女の先生はパパンチンを見ると気絶して、子供は驚いて、母のもとにかけて行った。子供は女の先生が死んだはずのパパンチンを見て倒れたことを話すと、妃は二人の付き人を連れて、浴場の側に行くと、パパンチンは浴場の階段に腰を下ろしていた。
妃は驚いたがパパンチンが皇帝を呼ぶように頼んだので、皇帝にその由を話した。皇帝は複数の重臣を伴いパパンチンの側に行った。皇帝は妹の姿をした悪魔ではないかとパパンチンに訪ねたが、懐かしそうに自分がパパンチンであると答えた。
皇帝はなぜ冥府から帰ってきたのか尋ねると、パパンチンは兄に話さなければならないことがあると答えた。
パパンチンは「私たちの先祖が死人の世界からこの世に送り返して一大事を兄に知らせようとしている。私は死ぬと広い谷間に立っていて谷は高い山で囲まれている。そしてそこに一人の若い男の子が立っていて、長い衣にダイヤモンドが一つついていて、太陽のようであった。若者は額に十字の印をつけて、方から翼を生やしていてそれが虹のようであった。若者は私に、あなたはまだこの河を渡るときが来ていないと言ってすぐそばの河をみた。それから私を連れて、広い谷を歩き出した。路の両側には屍が散らばっていて、暫く歩くとたくさんの黒ん坊に出会った。彼らは頭に角を生やして鹿のような脚をして一生懸命家をこしらえていた。それから少し行くと、河の中に沢山の船が浮かんでいて大勢がそれに乗り込んでいた。その人たちは私とまるで違った服装で澄みきった灰色の眼をして、赤い顔色で頭にヘルメットをかぶって手にいろんな旗をもっていた。若者は彼らは太陽の子で、あなたはまだ死の河を渡ってはならず、未来に起こる出来事を見なくてはならない。彼らが伝える信仰の栄と恵を楽しまなくてはならない。それが神の思し召しだ。といった。私は途中で見た屍について訊ねると、それは信仰を知らないで死んでしまった不幸な人達でいつまでも苦しみ続けなければならないと答え、黒ん坊が家を建てていることについて訊ねると、家は太陽の子たちと戦って殺される人々の住居と答えた。若者は別れの時が来た。あなたは人の世に帰って、新しい信仰のありがたさをみんなに知らせなくてはならないといって立ち去った。」と話した。
パパンチンの話を聞いていたモンテズマ二世は心が乱れて、自分の居間に戻り、閉じ籠って憂鬱な思いに耽った。
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